蕗狩軽便図画模型工作部日記

ー シュレマル工房 覚え書き ー

松井選手の座右の銘 “心が変われば行動が変わる……” の「心」って何?という話です

図書館レファレンス共同データベースに掲載されている石川県立図書館からの提供情報です。

質問内容は、

「心が変われば行動が変わる 行動が変われば習慣が変わる 習慣が変われば人格が変わる 人格が変われば運命が変わる」は、松井秀喜選手の座右の銘であるが、もともとウィリアム・ジェイムズ(心理学者、哲学者)の言葉らしい。出典を知りたい。

回答の最後には、“その後国会図書館にもレファレンスの申込をしましたが、やはり、分からないとの回答をいただきました。” と書かれていて、そのままの言葉は見つからなかったようです。

しかしこの座右の銘の言葉、なんか釈然としません。

なんでだろうとしばし考え、最初の ”心が変われば行動が変わる“ の、「心」の具体的イメージ、定義がよくわからない、理解できないのがその理由らしいと思い当たりました。

“習慣が変われば人格が変わる” も胡散臭さが尋常ではない気がしますが、まずはこの「心」が何を指すのかがよくわかりません。

そりゃまあ、コミュ力、社交能力皆無で絶望的なくらい人間関係の機微に疎い蕗狩軽便図画模型工作部シュレマル工房には「心」なんてものを理解できるわけないわな、と今更ながら一種の諦めの境地に至ってしまいましたが、このまま放り出すのも気持ち悪いので、「心」なるものの定義?を調べてみる事にしました。

頼りはいつも通り、国語辞典です。

ーーーーーーーーー

新明解国語辞典こころ【心】⁑[3][2]

(一)(A)特に人間に顕著な精神作用を総合的にとらえた称。具体的には、対象に触発され、知覚・感情・理性・意志活動・喜怒哀楽・愛憎・嫉妬(シツト)となって現われ、その働きの有無が、人間と動物一般、また敬愛・畏怖(イフ)の対象となる人と憎悪・けいべつすべき人間を区別するものと考えられる。古くは心臓がこれを つかさどるものとされた。

「ペットとの―の触れ合い/―が煮える〔=怒りのために心の平静を失い、あれこれと報復手段を考えたりする〕/―を汲む〔=相手がどう思っているかを十分に理解して、それに沿うように対処する〕/―のこもった〔=相手の生活環境や心情を十分承知して選定した〕贈物/―の琴線に触れる/―の安らぎを覚える/―に張りを持たせる/―を打つ/…に―を奪われる/深く―に刻み込む/―に残る/―にとめる〔=しっかり記憶して忘れないようにする〕/―を致す〔=そのことの実現を願って、誠意を尽くす〕/―の持ち方/―を配る/―が△すさむ(重い)/―の安まる暇が無い/―〔=心の持ち方〕が広い/―〔=考え〕が変わる/―〔=気持〕が はずむ/―を入れかえる〔=反省するなどして、生活態度を改める〕/―をこめる〔=(a)何かをしようとして、一生懸命になる。 (b)相手を思う気持を含めて、何かをする〕/―にも無い〔=本当にそう思っているわけでも無い〕おせじ」

(B)宗教的感動・美的感興・倫理的昂揚(コウヨウ)など、直接人間の精神構造を高める働きを持つもの。 「神を畏オソれぬ―のなせるわざ/―こそ―まどはす―なれ―に― ―ゆるすな」

(二)(A)その人が言葉によって表わそうとした本来の意味。文の主旨や、謎(ナゾ)成立の根源的契機など。 「江戸っ子は五月サツキの空の鯉コイのぼり。その―は、口だけあって腸ハラワタがなし」

(B)経験を積んで 初めて会得する、その芸道の持つ深い意味。

ーーーーーーーーー

心の語釈は、

“人間に顕著な精神作用を総合的にとらえた称。具体的には、対象に触発され、知覚・感情・理性・意志活動・喜怒哀楽・愛憎・嫉妬(シツト)となって現われ、その働きの有無が、人間と動物一般、また敬愛・畏怖(イフ)の対象となる人と憎悪・けいべつすべき人間を区別するもの”

ですと?

さっぱりわかりません。

“敬愛・畏怖(イフ)の対象となる人と憎悪・けいべつすべき人間を区別するもの” が、行動を変え、習慣を変え、人格を変え、運命が変える、って、なんかめちゃくちゃ真っ黒ドロドロの感情的な展開の話になってきそうで、そういうのが絶望的に苦手なシュレマル工房としては今すぐにでも神社に行って厄払いでもしてもらいたい気分になります。

気を取り直して、別の辞書を引いてみました。

ーーーーーーーーーー

広辞苑こころ

(禽獣などの臓腑のすがたを見て、コル(凝)またはココルといったのが語源か。転じて、人間の内臓の通称となり、更に精神の意味に進んだ)

➊人間の精神作用のもとになるもの。また、その作用。

①知識・感情・意志の総体。「からだ」に対する。大鏡文徳「この帝…御―明らかに、よく人を知ろしめせり」。「―の病」

②思慮。おもわく。源氏物語浮舟「―もなかりける夜のあやまちを思ふに」。「―を配る」

③気持。心持。万葉集17「いつかも来むと待たすらむ―さぶしく」。「―が変わる」

④思いやり。なさけ。万葉集1「雲だにも―あらなも隠さふべしや」。「―ない仕打ち」

⑤情趣を解する感性。新古今和歌集「―なき身にもあはれは知られけり」

⑥望み。こころざし。万葉集3「結びてし言ことは果さず思へりし―は遂げず」。「―にまかせぬ」

⑦特別な考え。裏切り、あるいは晴れない心持。万葉集4「―あるごとな思ひわがせこ」。「―を晴らす」

➋(比喩的に用いる)

①おもむき。風情ふぜい。栄華物語つぼみ花「よろづみな―あるさまに見え」

②事情。源氏物語夕顔「このわたりの―しれらむ者を召して問へ」

③趣向。くふう。源氏物語帚木「まづ難き詩の―を思ひめぐらし」。「絵の―を味わう」

④意味。古今和歌集「うたのさまを知り、ことの―をえたらん人は」

⑤わけ。なぞ解きの根拠。東海道中膝栗毛「これを衣桁のふんどしと解きやす。その―はどうだ」

⑥(歌論用語)内容。歌の主題・題材・発想などをいう。古今和歌集「―あまりてことば足らず」

➌①心臓。胸。むなさき。浄瑠璃、世継曾我「―まで来る憂き涙」

②物の中心。源氏物語桐壺「池の―広くしなして」

ーーーーーーーーーー

こちらの方は語釈が整理されていて、「心」の意味する複数の意味がわかるように思います。

“心が変われば行動が変わる” の「心」は、この場合、“ ②思慮。おもわく。 ⑥望み。こころざし。” あたりのことを指しているのだろうと想像します。

でもひょっとしたら、意図的にその他の情緒的なことまで含んで「心」という言葉を使っているのかも知れません。そうなると、【新明解国語辞典】の場合と同じく、なんのことやらさっぱりわからん事になりますが、こういう座右の銘的な言葉はそういうものなのかも知れません。

そういうものをまるっと飲み込んで座右の銘とし、自分に活かせる人こそが素晴らしい人なのだろうと思います。

「心」の定義を確認しようとしたりする蕗狩軽便図画模型工作部シュレマル工房なんかはダメダメですね、と今回はちょっとなさけなくなりながらの辞書語釈探索遊びでした。

ところで、こうしてブログ記事を書き散らしていて、ネットの何が嬉しいかというと、簡単にいろんな情報を検索して参照したり引用したりできること。本当にネットさまさまです。

と書いて、この「何が嬉しいかというと」という表現が理系方言だという話を見つけて驚きました。

togetter.com

これ、関西弁では普通の表現だと思うのですが、違うかったのでしょうか?

「何が嬉しゅうてそんなことせんならんねん」とか、似たようなニュアンスの表現もあります。

標準語圏の特に文系?の方々には、“良い、メリットがある、都合が良い、便利、好ましい、上手い、巧み “、というような意味ではなくて、喜怒哀楽感情の表現として解釈されることが多いらしい事を知って、ちょっと驚いたことも追記しておきたいと思います。