鉄道会社は、Railways、Railroadといい、航空会社は、Airlines、Airways というがAirroadとは言わない。なんでだ? Railways、Railroadってどう違うのだ。
というtweetを見かけて、蕗狩軽便図画工作部シュレマル工房も不思議に思いました。
railwayとrailroadの違いについては、Difference Between Railway and Railroad | Compare the Difference Between Similar Terms に、
“ 意味は同じ。英国その他カナダを含む英語圏ではrailwayという言葉を使うが、米国ではrailroadという言葉を使う。ただし米国でも路面軌道にはrailwayという言葉を使う。鉄道会社は経営主体が変わった事を示す為にしばしば会社名をrailroadからrailways(その逆も)に変更する。“
とありました。
蕗狩軽便図画工作部シュレマル工房が興味を持ったのは、wayとroadとlineの使い方です。それにはきっとちゃんとした理由があるのだろうと検討をつけて、またまた辞書語釈探索遊びの旅に出かけることにしました。
ロングマン現代英英辞典でそれぞれの語釈を引いてみました。
wayは、全部で6個ある語釈のうち、
3 DIRECTION/HOW TO GO SOMEWHERE [countable]
a) a road, path, direction etc that you take in order to get to a particular place
が、該当します。
roadの語釈は1つしかありません。
1 [countable, uncountable] a specially prepared hard surface for cars, buses, bicycles etc to travel on → street, motorway, freeway
lineは、17個ある語釈のうち、
7 FOR TRAINS [countable] a track that a train travels along
>railway line British English, railroad line American English
が該当しますが、Airlinesの場合は、
4 DIRECTION [countable] the direction or imaginary line along which something travels between two places
が該当しそうな気がします。
整理すると使い分けの意味がわかるように思います。
wayは特定の所に到達する道、road は物理的に設置された道、lineは鉄道路線または2つの場所を結ぶ路線、という意味合いで区別して使われているのでしょう。
社名がRailwaysと複数形になっている理由もわかります。いくつもの駅や路線があるのですから。対してRailroadは単に鉄道そのものを指しますから社名は単数形です。
ハイウェイという言葉もrailway と同じ感覚での言葉なのだとなんとなく納得。
東京アクアラインというのもなんとなく命名の理由が想像出来ます。
問題なのは、なぜアメリカではrailway ではなくてrailroadなのかという事です。
アメリカの歴史や文化など、本や映画でしか知らない素人の勝手なイメージですが、西部開拓時代に何も無いところにレールを敷いて列車が走る鉄の道を物理的に造り、物資や人の輸送路を整備するという感覚がrailroadという言葉を生んだのではという気がします。
もう一つ思い出したのがホーボーです。映画「北国の帝王」(1930年代大不況下のアメリカを舞台に、職を求めて鉄道の無賃乗車で放浪を続ける浮浪者(Hobo)と無賃乗車犯を追い払う車掌との対決を描いた映画)にも出てくるアレです。
アメリカン・フォークソングにホーボーの歌というのがあります。歌詞の1番はこんな感じです。
♪ 貨物列車に揺られて、どこまでゆこう、行く先ゃ誰も知らぬ、この汽車の終わりまで ♪
ホーボーにとって、鉄道は目的の所に到達するrailwayじゃなくてrailroadと言う呼び方の方がぴったりくるのかもしれません。
シルクロードは、かつて一般的には中国の洛陽からローマまでを指すということになっていたようですが、それはこの交易路の始点終点を示しているわけではなく、当然シルクウェイとは名付けられなかったということでしょう。実際には中国ヨーロッパ間の複雑なネットワークを形成する陸路海路全体を指すことから、シルクルートと呼ばれるようにもなってきているそうです。海路まで含むのでwayでもroadでもなくrouteという呼び方になったということでしょうか?
さらにもうひとつ、思い出したのが、高村光太郎の詩の有名な一節、「僕の前に道はない 僕の後ろに道はできる」です。これは明らかにway のことですね。これ、後ろにできる道を(後進を導く?)wayのつもりならちょっと凄いな、と……
ただ敷かれた線路の上をどうのこうの、とかいう場合なんかは、まさにrailwayという感じです。
他に道がない、という時の道はやっぱりwayで、こちらはロングマン現代英英辞典の一番最初の語釈、
1 METHOD [countable] a method that you use to do or achieve something
そのままです。
日本語の「道」の語釈はどうなっているのだろうと確かめてみました。
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<広辞苑> みち【道・路・途・径】(道の意の「ち」に接頭語「み」がついて出来た語)
①人や車などが往来するための所。通行する所。道路。通路。万葉集17「玉桙たまほこの―をた遠み」。「―なき―を行く」「―に迷う」「―が悪い」
②目的地に至る途中。土佐日記「舟を出して漕ぎ来る―に手向たむけする所あり」。「帰る―で見つけた」
③みちのり。距離。平家物語9「都へ近づく事もわづかに一日の―なれば」。「―が遠い」「千里の―を遠しともせず」
④(転じて)人が考えたり行なったりする事柄の条理。道理。万葉集5「かくばかりすべなきものか世の中の―」。「人の―に背く」
⑤特に、儒教・仏教などの特定の教義。「仏の―」
⑥道理をわきまえること。分別。浄瑠璃、松風村雨束帯鑑「―ある男子」
⑦てだて。手法。手段。平家物語5「馬に乗つつれば落つる―を知らず」。「和解の―がない」「―を失う」
⑧方面・分野。そのむき。「その―の達人」「歌の―」
⑨足場。踏台。〈日葡辞書〉
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<新明解> みち【道】〔「み」は雅語で美称の接辞、「ち」は道の意〕
(一)地面のうち人や動物が往来を繰り返すうちに踏み固められた、ある幅を持つ長いつながり。また、公共の往来・使用のために人為的に開発・整備された地面で、広義では地下道を含む。最近は多く舗装される。〔「通路(二)」の意にも用いられる。例、「―をあけて下さい」〕
「―無き―/学校へ行く―〔=途中〕で先生に会う/千里の―〔=距離〕も遠しとせず/栄光への―〔=(a)今日の栄光を勝ち取るに至った道程。(b)将来の栄光を勝ち取る△ため(まで)の道程〕/帰り―[3]」
(二)〔それぞれの目的によって決まった段階を経て進み、予想される障害を乗り越えて完成することが要求される〕専門の仕事・分野。
「―を究める/進むべき―を誤る/好きな―/その―のベテラン/この―一筋に四十年」
(三)どんな順序・方法で進んで行けば、どんな所に到達するかという見通し。
「生活の―が絶たれる/昇進の―」
(四)時世の推移、身分の高下にかかわらず、それを踏みはずすと反社会的行為として指弾を受ける、行動の規準。
「―を説く/―ならぬ恋/―〔=道理〕にかなう」
[表記]「《路・《途」とも書く。
[かぞえ方](一)は一本・一筋・一条
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<新明解>どう[道]ダウ
(一)通りみち。 「道中・道路・国道・大道・歩道」
(二)人として守るべきみち。 「道徳・道理・外道ゲドウ・正道・非道」
(四)仏教。 「道心・入道」
(五)専門の学問・技芸。 「道場・歌道・芸道・書道・柔道・茶道」
(六)言う。 「道破・報道・言語ゴンゴ道断」
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なんかすごくいろんな意味の語釈がいっぱい並んでいてよくわからなくなりますが、とにかくその中には、英語のroadとwayの両方のさまざまな意味もほぼ網羅されています。
日本語ネイティブとしては、road、wayの使い分けだけではなく「道」という言葉すべての意味の使い分けはほぼ完全に文脈による、みたいな感覚です。
明確にroadの意味で使う場合は「路」という字か「道路」という言葉を使うのが正しいのでしょう。
改めて、言葉は難しいなあと思いました。