蕗狩軽便 図画工作日記

ー シュレマル工房 覚え書き ー

観察と観測と測定と計測という言葉のこと

観察と観測と測定と計測という言葉は、ときどき混同されて使われているように思うことがあります。

そのことにちょっと興味を惹かれて、岩波書店広辞苑』 を引いてみました。

 

かん‐さつ観察クワン‥ 物事の真の姿を間違いなく理解しようとよく見る。「動物の生態を―する」「―が鋭い」「―力」

かん‐そく観測クワン‥ ①自然現象の推移・変化を観察・測定すること。天文学・気象学などの用語。「天体―」 ②様子を見て、事の成行きを推し量ること。「希望的―」

そく‐てい測定 はかり定めること。ある量の大きさを、装置・器械を用い、ある単位を基準として直接はかること。また、理論を媒介として間接的に決定すること。

けい‐そく計測種々の器械を使って、長さ・重さ・容積などをはかること。

 

それぞれ意味するところが違うのがわかります。

同時に意味合いがなんとなくオーバーラップしているように感じるところがあるようにも見えます。でもそこを上手に切り分けるのが辞書の語釈の語釈たる所以という感じです。

舟を編む」人達は凄い、と改めて。

ところで、これらの言葉は英語ではどういうのだろう、と小学館プログレッシブ和英中辞典』を引いてみたら、観察と観測はどちらも原則observationで、測定と計測はどちらも原則measurementでした。

 

かんさつ観察observation *1   観察する 〔特別の目的のために〕observe;〔じっと見守る〕watch

かんそく観測1〔観察・測定すること〕(an) observation 観測する observe, earthquake registered 2〔観察して推し量ること〕view, thinking, predict

そくてい測定measurement 測定する measure;〔土地を〕survey;〔水深を〕sound,  体重を測定する weigh oneself,  測定器a measuring instrument,  測定法a method of measurement

けいそく計測measurement 計測する measure, 計測器a measuring instrument

 

observationとmeasurementは、意味的に重なるところは全くありません(下記、ロングマン現代英英辞典より)。

・observation ob‧ser‧va‧tion /ˌɒbzəˈveɪʃən $ ˌɑːbzər-/ ●●○ W3 noun 1 [countable, uncountable] the process of watching something or someone carefully for a period of time

・measurement mea‧sure‧ment /ˈmeʒəmənt $ -ʒər-/ ●●● W3 noun   1 [countable] the length, height etc of something, 2 [uncountable] the act of measuring something

・measure mea‧sure1 /ˈmeʒə $ -ər/ ●●● S2 W2 verb    1 [transitive] to find the size, length, or amount of something, using standard units such as inches, metres etc.,  2 [transitive] to judge the importance, value, or true nature of something 類義語 assess,  3 [linking verb] to be a particular size, length, or amount,  4 [transitive] if a piece of equipment measures something, it shows or records a particular kind of measurement

 

広辞苑の語釈では随分と意味するところが違いながらもなんとなく微妙にオーバーラップする日本語が、英語では2つの単語で綺麗に表し分けられているのにちょっとびっくりしました。

日本語ではときどき「観測」と「測定」を混同して意味やその意図、目的を取り違え、混乱を招く例があるように思いますが、英語ではそういうことは起きそうにないですね。

ということで、それがなんの役に立つの?それになんの意味があるの?それの何が面白いの?と言われるような知識やものやことが大好きな、てきと〜い〜かげんでいちびりのいらんことしいを自負する蕗狩軽便図画工作部シュレマル工房としては大満足の、楽しい辞書語釈探索遊びでした。

あーおもしろかった^^;

なんにしろ、言葉の意味、定義をあんまり明確に意識しないまま、変な袋小路の議論や批判合戦になっていたりするのはとても勿体無いと思います。

と思うのは私だけで、ひょっとしたらみなさんちゃんと意味や意図、目的を把握したその上で議論しているのかもしれないので偉そうなことは言えませんが、どうも最初から目的というか、得ようとする情報が異なっているように思えた、というのがあったのが、この辞書語釈探索遊びのきっかけになったことを記しておこうと思います。

 

追記;

舟を編む』の辞書は大辞林でした。なので大辞林の語釈も記しておきます。広辞苑の語釈と比べてみて用例が面白く感じました。

かん-さつ クワン― [0] 【観察】 (名)スル 物事の様相をありのままにくわしく見極め,そこにある種々の事情を知ること。「自然現象を―する」「―が鋭い」「―記録」

かん-そく クワン― [0] 【観測】 (名)スル (1)天候や自然現象の様相を見て測定すること。「太陽の黒点を―する」「―船」 (2)物事の様子をよく見て動きを推測すること。「物価に対する政府の―は甘い」「―記事」「希望的―」

そく-てい [0] 【測定】 (名)スル 長さ・重さ・速さなど種々の量を器具や装置を用いてはかること。直接行う方法と,理論によって間接的に行う方法とがある。また,広く自然や社会の現象を記述するため,一定の規則にしたがいその対象の量に数値をわりあてることをいう。「距離を―する」「民度を―する」「体力―」「―値」

けい-そく [0] 【計測】 (名)スル 器械を使って,ものの量や値をはかること。「―器」

 

追記その2;

測定の語釈にある「理論を媒介として間接的に決定すること」、「一定の規則にしたがいその対象の量に数値をわりあてること」と言うのがもうひとつ具体的でないので良くわからないですが、一例として、意識調査や好感度評価などでよく使われるSemantic Differential Method(セマンティック・ディファレンシャル法)みたいなものを指しているのだろうと思います。

 

追記その3;

ある方から、JISでは計測は測定よりも広い意味でとらえられている、ということを教えてもらってちょっと戸惑いました。

国語辞書の場合、その時代のその言語を使っている人たちの大多数がそう認識している意味や使い方を反映するもので、専門用語集のように規則として意味や使い方を定義、限定するものとは性格が違うということもあると思います。

SD法で好感度を測定すると言うのは一般的ですが、好感度を計測するとは言わない、というようなことを語釈を形成する要素としているということでしょうか。

 

 

*1:of