蕗狩軽便 図画工作日記

ー シュレマル工房 めもらんだむ ー

昔のレイアウトのショボい山地森林のシーナリィは写実描写だった?

以前、こんな記事をアップしましたが……

sktrokaru.hatenablog.com

明治の時代そして戦前もですが、特に戦後は燃料材としての消費は急激に落ち込んだものの、復興&経済成長過程で建築土木その他パルプ等産業用の木材需要が急増して、奥山も含めて伐採が進み、元々貧弱だった里山や都市近郊林の植林だけでなく、大規模な広葉樹林の伐跡に針葉樹が植林される拡大造林が盛んに行われました。

今も続く植樹祭がいちばん華やかに開催されたのもこの頃です。植樹祭は、必ず天皇皇后両陛下が出席されてお手植えをされます。当時から(当時は特に)、植林による国土緑化が如何に重要な位置付けだったかがわかります。

広葉樹林だけでなく針葉樹の天然林や針広混交林では、傘伐という樹下更新母樹として針葉樹を疎らに残す伐採方法も行われていて、そういう施業は特徴があるので資料写真として見かけることも多いようです。

そんなことに想いを巡らせているうちに、ふと1950〜60年代レイアウトのシーナリィでよく見られる、ともすれば現実の風景には程遠く不自然でおもちゃっぽいとも言われがちな、疎らな樹木植生が目立つ山の情景は、意外と当時やその少し前の時代の風景を忠実に描写しているのではないだろうかと思い当たりました。

下はTMS特集シリーズ「たのしい鉄道模型」(1964年)掲載の天賞堂第3次オメガセントラルです。

いかにも一昔前の鉄道模型レイアウトらしい疎らな樹木植生が特徴的な山の情景です。一枚目の右上の方の線路脇には規則正しく並んで植えられた幼齢造林地が見えます。

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下はTMS1963年5月号掲載のカワイモデルのレイアウトです。

こちらの山の樹木の散らばり方は、どちらかというと欧州や日本の亜高山帯に見られる植生を模したようにも見えます。

欧州レイアウト作品には、よくこういう感じの山地風景のシーナリィが見られます。おそらくはそれも、欧州の風景の忠実な描写と言って良いのだろうと思います。

製作協力したTMS特集シリーズ「小レイアウトと小型車両」(1965年)著者の中村汪介氏の作風の影響もあるかもしれません。

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下の写真は、TMS1957年12月号掲載の芦屋高校記念祭のレイアウトです。背景画の右上には黒々とした針葉樹林が見えます。

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シーナリィの丘陵地はパッチ状に背景画の針葉樹林と同じ様な色の大鋸屑を撒いた感じです。伐採跡に植林された樹木をお手軽に表現したのでしょうか?

背景画左下の針葉樹は疎らで、草地に樹木が等間隔で並んでいるように見えないこともなく、樹冠閉鎖前の造林地の様子を写生したのかもしれません。中央には並木が続く街道?や屋敷林か防風林のようなものも描かれています。

背景画奥の樹冠が閉鎖した背の低い針葉樹林も畑地の畝や道等との対比から見て、10年生程度の造林地を描いているように見えます。

そもそも頭の中のイメージだけで絵を描くのはもの凄く難しいことです。絵描きさんでも、実物や写真、資料を見て描く方がうんと楽でしょうし、そうすることの方が普通です。

つまりこのレイアウトの背景画を含むシーナリィも実際の風景の写実的描写と言って良いと思います。

1970年代以降、現実の世界ではどんどん造林地の樹木が成長して黒々と茂った森林になって来ています。にもかかわらず、都会のモデラーは雑誌などで先達の作品を見、それをお手本としてレイアウトを作り技法表現を模倣、コピーしてシーナリィ工作をする(そのこと自体はまったく悪いことではないと思います)ことが多かったのでしょう。その結果、表現のシンボル化が進むとともに、現実風景とのずれが拡大してしまい、それを見た人々がレイアウトの山地森林の情景を不自然に感じるということがあったかもしれません。

最近、雑誌やネットなどで発表される作品は、とても実感的で実物の写真と見まがうような作品が目白押しですが、まだまだ樹木の背丈は低いことが多いように見えますし、森林でもそれぞれの樹木の樹形樹冠の形が独立木っぽいものが多いようで、これは実際の森林を近くで見る機会が少なかったり、市販製品の樹木の影響もありそうな気がします。

しかし、雑誌やウェブで、実感的な山の森林のシーナリィが特徴的な素晴らしいレイアウトやその工作テクニックの詳しい解説をごく普通に豊富に見られるようになったのは凄いことです。

でも、だからと言って、そういうどこまでも素晴らしく精密精細で写実的な模型ばかりが良しとされるのもまた息苦しく感じます。風景シーナリィだけでなくストラクチャーについても車両についても同じことが言えそうです。

森林に限らず実際のものをよく観察し知った上で、デフォルメして好ましい形状、表現を工夫する模型工作が出来たら、そういう作品が沢山つくられ、見られるようになったら楽しいだろうなと思います。