蕗狩軽便図画模型工作部日記

ー シュレマル工房 覚え書き ー

横動が無く摩擦抵抗が少ない本来の機能を発揮する適切な構造を簡単に作れるのも鉄道模型車輪にピボット軸受けを採用した理由だったのかも、というお話です

以前、鉄道模型の車輪軸受けにピボット軸受けが多用されているのはなぜなんだろうと、けっこう真剣に考えて楽しんでいたことがありました。

・ピボット軸受けのこと&車輪タイヤのテーパーのこと - 蕗狩軽便 図画模型工作日記

・よく考えたらピボット軸受けって? - 蕗狩軽便 図画模型工作日記

その時考えた、鉄道模型にピボット軸受けが多く使われている理由は、

・加工精度が低くても大きな問題無く機能する(軸受けが多少曲がったり位置がずれたりしていても大丈夫。昔のブリキ玩具などでは、ポンチで凹ませただけの軸受け穴の位置や軸受け取り付け位置そのものがズレて車軸が斜めになっているようなものもザラ。プレーン軸受けではそうはいかない。ペラペラの薄い板にガバガバの軸穴が開いている様な軸受けなら大丈夫だろうが)。

・しかし大抵の場合、ピボット軸受け本来の効果、機能を期待できない精度、条件だったと思われるので、摩擦抵抗の軽減はオマケ的な目的だったかも。玩具の軸受けで時計や小型計測器指針用のレベルの摩擦抵抗軽減など意図するはずも無い。

・たかが知れている程度の荷重しか掛からない玩具や模型ならではの応用的な選択肢として、その昔ブリキの鉄道模型が大量生産され始めた時代に製造法や加工精度の事なども考慮し採用されたピボット軸受けがそのまま受け継がれ、それが摩擦抵抗の軽減にも効果的だったので、あまり車両が重くないスケールの模型でもそのままずっと使用され続けているのではないか。

・主に荷重が小さく精密な位置決めや低摩擦が必要な小型計器指針用の軸受などとして使用されるピボット軸受けを、車両の荷重を支える車軸に横向きに使うこと自体がそもそもイレギュラーな使い方では?

というようなことでした。

ただ、その後、プラレールやレゴトレイン、ブリオ含めて鉄道玩具はほぼみんなプレーン軸受けなのに思い当たりました。構造的にもプレーン軸受けは穴を開けてシャフトを通すだけなので車軸先端を尖らせるような手間のかかる加工は必要なく、トータルで見て製造が楽だから当然のように思います。子供がすごい力で押さえつけたり投げたり叩きつけたりしても簡単には車輪が外れることはありませんし。

余談ですが、先日行った3DプリントOOスケールスポーク車輪づくりで、ピボット車軸10本分の精度が要求される軸端整形加工作業は、低技術低技能のシュレマル工房的にはまさに苦行でした。製品生産でもこの工程は結構な手間と費用だと思います。

なのに鉄道玩具模型が車軸加工にコストのかかるピボット軸受けを採用したのは、乱暴な扱いは想定外の実感的精密模型玩具として、軸箱ディテールを表現するのに貫通孔はさすがにまずいし、軸受けを凹ませるだけの加工が圧倒的に楽だったらからではないかと想像します。

そんなことを考えながら、子供の頃に遊んだ16番の車両を引っ張り出し、下廻り軸受けを観察して、大変な事?に気付いてしまいました。

軸受け穴はポンチで凹ませてドリルでさらったレベルですが、ピボット車軸の先端がガタなくはまりこんで、ごく軽く滑らかに回転します。

根元に弾力を持たせた軸受けがスプリングを効かせて両側から車軸を挟み込み、文字通り尖ったピボット先端で車軸を保持している状態になっていました。

横動は無く、ほぼピボット軸受け本来の機能発揮条件を満たす構造になっているのに呆れました。加工精度のレベルから考えていたのとはまったく逆でした。

もちろん、たかが知れている程度の荷重しか掛からない小さな模型ならではの使い方でしょうが。

現在製品として流通している鉄道模型のピボット軸受けは、このような構造ではなく、かなりのガタ、横動がある状態で車輪がセットされています。

そうなってくるといよいよピボット軸受けを採用する理由がわからなくなってきます。

摩擦抵抗を減らすならプレーン軸受けでも軸端部直径を細くするだけでいいわけだし、ガタのあるピボット軸受けのように横動にともなって車軸の水平角が不規則に揺れ動くことも無いし、軸端、軸受けの構造も単純で加工製造の手間も減ると思うのに、いったいなぜピボット軸受けがデフォルト?となっているのか不思議だなあと改めて頭をひねった蕗狩軽便図画模型工作部シュレマル工房なのでした。

追記;

ガタのあるピボット軸受けは横動することによって構造的に車軸水平角の揺れ(ロール)を許すことから、固定軸受け台車での線路の不陸に良く追従する効果が望める、なんて屁理屈も思いつきましたが、さてどうでしょう?

追記その2;

さらに、プラスチックインジェクション成形の場合は抜き勾配が必要なので円錐形の軸受け孔の方が有利、プレス加工の場合も当然円錐形の軸受け孔の方が形状、精度の点から圧倒的に有利だから、というのも思いつきました。こちらはそれなりに説得力がありそうな気がします。