蕗狩軽便図画模型工作部日記

ー シュレマル工房 覚え書き ー

イコライザー(3点支持方式とロンビック「等角逆捻り」方式)のこと

鉄道模型の走行性能(レール追従、牽引力、集電機能)の安定にはイコライザーの効果が高いという話は常識のように言われています。

確かに実物ではイコライザーがあるのはあたりまえ?のことですし、大きさ重量質量動力それからその動力源供給の方法など実物とは大きな違いはあるにしろイコライザーの効果があることは間違いないでしょう。(担い発条、懸架の事は別の話としてここでは扱いません)。

で、まあ、蒸気機関車台枠などのイコライザーの解説図なんか見ていると、どういう構造になっているのかわけわかんなくて頭が痛くなること請け合いですが、よくよく整理すればなんのことはないただの3点支持台車と同じなのが分かります。

以前に取り上げた古い鉄道模型趣味誌の「3点支持」の記事に解説されている通りです。(下記リンク記事3枚目の図参照)

sktrokaru.hatenablog.com

なもんで、通常の3点支持、横3点支持、それからロンビックと名付けられた「等角逆ひねり」イコライジング機構について整理してみることにしました。

下がそれぞれのイコライジング機構原理のスケッチです。斜線でハッチングした面が基準面(車両の床が乗っかる面)です。

f:id:sktrokaru:20210830174709j:plain
通常の3点支持の場合は一軸が固定されているので、左右のレールの不陸がそのまま基準面のロール角(横方向回転角)となり、前後車輪間の不陸の総和がピッチ角(縦方向回転角)となります。横3点支持は通常の3点支持に対してレールの不陸と基準面の動きの関係が90度ずれます。

横3点支持は実物でも見られますが、カプラー高が基準面高と一致せず車重が軽い場合は牽引力に負けて傾いてしまい逆効果となることが多いので模型的にはあまり望ましくない構造です。

ロンビックは前後車輪がそれぞれの車軸中央を支点に同じ角度分逆ひねりされる動きをします。でもこれ、前後どちらかの車軸を基準と考えたら3点支持と同じことなんですね。違いは各車輪のイコライジングによる上下動によって、基準面の傾き(回転)の量と方向が異なるという点につきます。

通常の3点支持では固定軸の横方向の傾きがそのまま基準面の傾きになりますが、ロンビックでは単純に考えてその半分以下で収まります。そのほかのレールの不陸への対応や荷重の分散については変わるところはありません。

実際に鉄道模型の車両に組み込んだ場合の挙動と効果をもう少し整理して丁寧に説明すると、

(1)ロンビックの場合はレールの不陸に対する基準面のロール、ピッチ角がそれぞれどちらも各車輪のイコライジングによる上下動の総和となり、結果的に3点支持の場合の半分以下程度に抑えられるため車体の揺れがそれなりに実感的?になるということ、

それからこれがいちばん重要なことですが

(2)全車輪が支点を介してイコライジングされる結果、車輪の動きが車両本体の質量の影響を直接に受けにくく、より自由かつ容易にレールの不陸に追従するため、特に大スケールの模型で大きな質量を持つ車輛、つまり大きくて重い車輛でも脱線しにくくなるし集電も確実になるだろうということ、

でしょう。

あと、3点支持やロンビックの場合は基準面が軸固定の場合の長方形より大きさも形状も不利になるため、カーブや加減速時に重心が基準面の外に出やすく不安定になり脱線しやすくなります。特に車体の重心の位置が高かったり質量が大きかったりするとその傾向が顕著になります。

しかしです。実際のところは、HOナローや小型のOナローだと車体質量の影響なんて殆ど無いに等い状況ですし、実感的な車体の揺れなんて、そんなもんあんなちっこいスケールではよくわかんないというか、気になんかしてないのが実情。近眼乱視に加えて老眼進行中の私の場合は完全に問題外の話です。

ということで、蕗狩軽便図画工作部シュレマル工房では、全軸固定、または必要に応じて3点支持と割り切って工作しています。それにだいたい固定軸でも例えば前輪右が浮き上がったら後輪右にかかる荷重が倍になるせいかそれだけ摩擦力も集電力も大きくなるみたいなので極端な差は出ないように思います。

しかしまあこんな、たかがおもちゃのでんしゃになにをごちゃごちゃとたいそうに、と言われそうなことに熱弁奮って、聞かされる方はたまったもんじゃなかろうとここ以外では誰にも言わずに内緒にしている蕗狩軽便図画工作部シュレマル工房なのでありました^^;

 

追記:

でも、ちょっとしつこく気になって、実際にそれぞれのイコライジング機構の違いを確かめるため、同じ軸距離、同じモーターとギヤ比でこの3種類のイコライジングで1軸駆動の2軸動力をつくってみました。

左から縦3点支持、横3点支持、ロンビックイコライザです。

f:id:sktrokaru:20210830174819j:plain
3点支持の構造を見やすい方向から。

f:id:sktrokaru:20210830174913j:plain

この下回りを【箱根登山鉄道】マグネット連結登山電車の車体に組み込んでトミックスミニカーブレールR103を走らせてみました。

固定軸(横3点支持のイコライザを固定したもの)と比較すると、どれもうんと走りが安定しているように感じます。走行音が固定軸と少し違って聞こえるのは、レールの不陸に車輪がよく追従しているからでしょう。その分集電性能も良くなっているはずだと思います。車体の揺れについてはこの大きさだとほとんどその差はわかりません。

このクラスの車体質量では走行性能は本当にほとんど変わらないと言ってよいようですが、高速でカーブを通過させたときの安定性は、固定軸 >> 縦三点支持 > ロンビック >>> 横三点支持となりました。(注;横3点支持はイコライザ側を外方向、縦3点支持はイコライザ側を後側、いずれも動力軸=モーター位置を後側として実験)

なんと、急カーブの高速走行では固定軸が一番脱線しにくいという結果になりましたが、これは高速のカーブで重心が基準面の外に出て脱線(転覆)ということとモーターやウェイトが駆動軸の方に偏っていることも影響していると思います。S字カーブだとこの傾向が一層明瞭になりますが、どっちにしろ普通の速度では全然問題ないレベルのお話です。

また、牽引させる(カプラーを後ろから引っ張る)と横3点支持は簡単に傾いて片方の車輪が浮き上がります。カプラーの高さと基準面の高さが違う場合はモーメントの関係から当然そうなります。つまり横3点支持は牽引車にはあまり向きません。急発進させても一瞬車体が斜めに傾き脱線しそうになります。ウェイトとかを積んで上まわりの質量が大きい場合は特にそうなります。

Oスケール以上の質量の大きい模型だと、もっと明らかに安定性に差が出てくるだろうと思いますが、それはやってみなければわかりません。

というわけでHOナローやOナロークラスでは、どのイコライジング方式を採用しても効果はほとんど変わらないと思います。となれば、できるだけ作るのが簡単なほうがいいわけで、今回の場合、縦3点支持は車軸を直接中央で支えるという簡易な方法を採用しているにもかかわらず、3つのイコライジング機構の中では一番工作に手間がかかりました。

もっとも簡単に工作できたのは横3点支持ですが、これは単行車両の場合以外はあまりお勧めできません。結局ロンビックイコライザが、構造的にも工作の手間的にも一番リーズナブルな方法という結論に落ち着きました。

ロンビックイコライザは一見構造が複雑で、工作が難しいように思われますが、実用的にはそれほどの精度が要求されるわけでもなく、作業的には意外なことに横3点支持と大して変わらない手間で工作ができてしまいます。

というわけで、2軸車両にイコライザを組み込むならロンビックイコライザがおすすめです。

でもぶっちゃけ、HOナローやOナロークラスの2軸車にイコライザーなんぞほとんど意味ありません。どうせやるならスプリングを組み込んで懸架するのが走行性能(レール追従、牽引力、集電機能)を向上するのに一番有効なのではないかと密かに思っています。

つーことで、ちょっと前までは面白がっていろいろイコライザー組み込んでまして、たしかにそれなりの効果はありましたが、現在蕗狩軽便図画工作部シュレマル工房の自作車両はほぼすべて全軸固定、と決めてかかってます。だって費用(労力)対効果考えたらめちゃアホらしいし、だいいちあんなこまけ〜工作すんのめんどくせ〜んだもん、と言うのがいちばんの理由です(^^;

 

追記のおまけ;

ちっこいのに組み込んだ例の一部です。上のが3点、右下が横3点、左下がロンビックです。

f:id:sktrokaru:20210831173005j:plain