蕗狩軽便 図画模型工作部日記

ー シュレマル工房 覚え書き ー

真鍮製模型の塗装下地処理のこと ~サビサビのままで大丈夫というお話です~

真鍮製のキットや自作模型は組み上がったら通常は、キサゲをかけ、ペーパーで磨き、ハイホームなどの研磨剤をブラシにつけて綺麗にサビを落とし、中性洗剤で脱脂し、徹底的にされる方は硫酸硝酸サンポールでの酸洗いでピカピカに仕上げた後に、エッチングプライマーやミッチャクロンなどで下地処理をして塗装にかかるというのが正統派の伝統的手順だと思います。

しかし腕も道具も気力も体力も無く怠け者のてきとーモデラーである蕗狩軽便図画模型工作部シュレマル工房は、完成するのに何年何十年もかかって茶色く色が変わってしまったモノもそのまま磨かず塗装しています。だってめんどくさいんだもん^^;    緑青が噴いている場合はさすがにお酢をぶっかけて溶かし除いてしっかり脱脂してからプライマーをかけますが。

そしてその後すでに10年以上経ったものも何の問題もなく、ほぼ塗った当時そのままの塗装を維持しています。結果オーライです。

こういう話、考えようによってはかなりみっともないので、いままで他人には明かさなかったのですが、なんで大丈夫なのかとちょっと気になって、わかる範囲で調べてみました。

結果、真鍮の酸化被膜は塗装下地処理の一種となるらしい、と言うことが判明。いや、調べてみるものですね。

とりあえず参考にした資料や文献は文末に記しておきますので、関心のある方は参照してください。

上に述べた正統派の伝統的塗装手順というのは本来、鉄製品を対象とした標準的塗装手順で、主に赤錆による侵食を防止する塗装を良好に行うためのものと思われ、塗料の喰いつきを向上するための下地処理も兼ねています。

これを金属表面を保護する酸化被膜が形成される金属(特に非鉄金属)にも同じように適用する必要はありません。鉄の合金であるステンレスの場合は表面の酸化被膜をそのままにプライマーによる下地処理を行います。

ステンレスやアルミの場合は酸化被膜が緻密で滑らかなので塗料の喰いつきが悪くプライマーをかけるか焼き付け塗装をしないと実用に耐える塗装は難しいですが、鉄の黒錆被膜や真鍮などの酸化被膜の場合は粗面が形成されるので塗料の喰いつきは返ってよくなります。もちろんプライマーをかければ喰いつきはもっとよくなります。だんだんよくなる法華の太鼓です。

時間が経っても塗装が不完全でも塗装の下で錆が発生して膨らむことも剥がれ落ちることもありません。万々歳の結果オーライです。まったくもっててきとーいいかげんで不埒な蕗狩軽便図画模型工作部シュレマル工房の期待通りのけしからん(笑)状況です。

ちなみに酸洗いなど、徹底的に金属表面の酸化被膜や汚れを取り完全に脱脂する処理は、金属メッキ(電気メッキ)などの加工の前処理として必要なもので、塗装の下地処理とは一線を画すもののようです。

もちろん真鍮地肌の輝きを楽しむ未塗装ブラスモデルやサンドブラストをかけて梨地肌の上品なテイストを楽しむ工芸的作品の場合には、丁寧な錆汚れや酸化被膜落としに加えて本来の金属表面の輝きを保護する透明塗料やワックスなどによる処理が必要なことはいうまでもありません。

ということで、どうせ下地が見えなくなる塗装なら、別にいいじゃん?サビサビのままでぜんぜん大丈夫じゃん?というお話でした。

以上、私の絶望的無知蒙昧知識教養不足理解読解能力不足や夜郎自大の思い込み勘違い間違い等がありましたらご容赦とご指摘ご指導よろしくお願いします。

 

追記:真鍮製模型の表面に出ているハンダはフラックスの洗浄不備や湿度条件などの環境により酸化して表面に白い粉状の鉛化合物が発生することがあります。これはハンダ/ホワイトメタル用の黒染め液などで強制的に酸化被膜を形成することでクリアできます。

でもこの白い粉状の鉛化合物は水溶性なので中性洗剤で脱脂する際にブラシで簡単に落とせます。その後普通にプライマーをかけて普通に塗装すれば問題はないと思います。

真鍮部分も黒染め液によって強制的に酸化被膜を作ることが可能ですが、経験上、適切な粗面が形成されるかどうかは条件によると思われますので注意が必要でしょう。

なお、鉄の黒錆を塗装下地とするさび転換型防食塗装システムに関する技術については2020年に初出の論文です。長期時間経過の結果がどうなるかはまだ検証されていませんが、真鍮の酸化被膜では大丈夫と考えて良いと思います。

 

参考文献(注:記事を書くのにざっと適当に参照したものの一部です。ちゃんと探して内容をしっかり確認すればもっと適切で有用な文献があるはずです。)

・原田隆郎, 橋梁点検時における応急塗装の腐食抑制効果に関する実験的検討, 構造工学論文集 Vol.66A, 2020-03.

・古主泰子, 建築用和釘における非金属介在物及び酸化皮膜生成への過飽和酸素の影響, 東京芸術大学博士論文, 2014.

・永井 太一, 化学的粗面化技術による金属/樹脂・ゴムの接合強度の向上, 表面技術 67巻 12号, 2016, p.654-657.

・永井由太郎, 塗装の前処理, 金属表面技術,1955.

・仁平宣弘, 金属表面処理の基礎知識, ものづくり&まちづくり BtoB情報サイト「Tech Note」(website), 2016-08-04.

・横山直樹, 最新のさび転換型防食塗装システム,防錆管理  (防せい管理) 64号, 2020-10.

 

注;この文献リストは、社会的地位も権威も身分もカリスマも人望も収入も人に誇れる技術技能も知識教養も無い何処の馬の骨ともわからない、ただのいーかげんてきとー大好き趣味娯楽モデラーである蕗狩軽便図画工作部シュレマル工房としては、ちゃんと記事に書いていることの根拠くらいはしっかり明示しとかないとどうにもならんだろうという矜持もとい自覚の発露でありますので、そこんとこヨロシクなのです^^;

 

追記:

上記記事は、同人誌「蒸機工作派のための鉄道模型通信 古典機・軽便・そして地方鉄道 Vol.153 、令和4年4月5日発行、情報発信元:今野 喜郎」P25〜26に掲載したものです。