蕗狩軽便 図画模型工作部日記

ー シュレマル工房 覚え書き ー

蒸気機関車の斜め置きのシリンダーのこと

蒸気機関車のシリンダは、当たり前の話ですがピストン軸の延長線がメインロッドがかかる動輪の軸の中心を通っています。

そして普通に見られる蒸気機関車のシリンダーは水平に置かれていますが、小型のタンク機関車や東武鉄道の4-4-0テンダー機関車のように斜めに設置されているものがあります。

これはなぜなんだ?というお話を見かけていつものように面白半分、蕗狩軽便図画工作部シュレマル工房は斜め置きのシリンダの機関車にはどんなのがあったっけとてきとーに並べて考察してみました。

ぱっと思いつくのはロケット号です。

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Stephenson's Rocket | Science Museum Group Collection

 

この写真は一般的に知られているものより斜めの角度が小さいですが、ようするに従輪への干渉を避ける為にこの位置になっているということのようです。

この場合、動輪が大きくて車軸の位置も高く、地面との間隔も十分取れますから、ホイールベースが長くて動輪と従輪の間にシリンダを置けるのなら水平に設置したのではないでしょうか?

有名なほうのプロポーションはこちらですね。

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Stephenson's Rocket - Wikipedia

 

蒸気機関車の黎明期にはシリンダは縦置き(ex. ロコモーション号)か、高い位置に水平に置かれギヤやロッドで動力を動輪に伝達する形(トレビシックの機関車など)がほとんどだったようです。なぜか動輪の軸位置に水平にというのはあまり見られません。

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リチャード・トレビシック - Wikipedia

 

Stockton & Darlington Railway 0-4-0 No. 1 'Locomotion' (1825) Head of Steam, Darlington 30.06.2009 P6300119 (10192855826).jpg

Locomotion No. 1 - Wikipedia

 

蒸気機関車の技術がアメリカに渡って作られた初期の機関車の一例はこれ。

ベストフレンド・オブ・チャールストンです。これ、開けっぴろげで陽気なかたちが大好きな機関車なので模型をつくってみたかったんですよね。なんと言ってもフレーム前端に付けられた竹箒風排障器が素敵です。レール面を掃除するのかな?

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Best Friend of Charleston - Wikipedia

 

この場合はフレーム内側に置いたシリンダ周りの保守性とフレーム梁との干渉を避けるための配置なのだと思います。

この他2軸機関車には縦方向に上に伸びたロッドをリンク機構で折り返すアームがバッタの脚のようにぴょこぴょこ動く構造のためかグラスホッパーと呼ばれる縦置きシリンダの機関車もあります。

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http://www.catskillarchive.com/rrextra/absa2.Html

 

英国製のフレーム内側シリンダ水平置き2軸機関車もありますがみるからに保守整備が大変そうです。

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http://www.catskillarchive.com/rrextra/absa2.Html

 

この機関車は劣悪な条件の線路に対応するために先輪をつけられて、ジョン・ブルという名の有名な機関車に改造されています。

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http://www.catskillarchive.com/rrextra/absa2.Html

 

その後、アメリカの劣悪な線路条件に適応する機関車として製造された英国製の4−4−0タイプ機関車は、先台車との干渉を避けるためかよくわかりませんがシリンダが斜め置きになっています。

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http://www.catskillarchive.com/rrextra/absa2.Html

 

しかし、後期のアメリカ製4−4−0の完成形は内枠先台車の先輪を小さくしてあたりを避けシリンダを水平に置いています。

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車輪配置 4-4-0 - Wikipedia

 

あと、フレームとの干渉を避けるためというケースでは国鉄C53など3シリンダー機の中央シリンダーの配置があります。

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国鉄C53形蒸気機関車 - Wikipedia

 

その他、動輪が非常に小さい小型のタンク機関車などでは、地面と動輪軸の距離が小さいのでシリンダを水平に置くと地面にぶつかったり保守性が極端に悪くなってしまうのでそれを防ぐためにシリンダを斜めにして高い位置に置かれることになります。

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一枚の写真から 7 機関車編 横浜税関の機関車: 汽車好きクラーケン

 

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More Underground Steam

 

整理すると、蒸気機関車の斜め置きのシリンダは、先台車やフレーム等の干渉を避けたり設置位置関係上の保守性への配慮のほか、小さな動輪の小型機関車の場合は特に地面や障害物との干渉や保守性の問題を避けるためと考えられます。

が、しかし、そこでどうにもあまり納得がいかないのが、上で触れた英国製の初期アメリカン4-4-0機関車や下のように動輪がそれなりに大きいのにシリンダを斜め置きしている例です。

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Beyer Peacock & Company Works No 1827 0-4-0ST – Preserved British Steam Locomotives

 

同じくベイヤー・ピーコック製やネルソン製の国鉄イギリス型4-4-0テンダー(5300形、5500形,5600形,6200形など)のスタイルも、先台車を内側台枠にすればアメリカンのピッツバーグ社製関西鉄道早風(6500形)のようにシリンダーを水平にできたはずなのに敢えて斜め置きにしています。

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国鉄6200形蒸気機関車(ネルソン) - Wikipedia

 

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国鉄5600形蒸気機関車(ピーコック) - Wikipedia

 

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関西鉄道早風、国鉄6500形(ピッツバーグ)- 関西鉄道の蒸気機関車

 

こういうのって、蕗狩軽便図画工作部シュレマル工房としては、どう考えても英国黎明期の代表的有名蒸気機関車ロケット号からの英国蒸気機関車の伝統と矜持に基づいて、実は単純にかっこいいからとかいう英国設計者技術者の好みやこだわりの要素が大きいんじゃないかと思うのですが、実際のところはどうなのでしょう。

というわけで、たかがシリンダの斜め置きのことだけで、これだけいろいろ思い巡らして遊べて楽しめるのも実物鉄道ファンとしての知識をほとんど持ってなかった怪我の功名というか恩恵ともいうべきものかと変なところで悦に入っているのありました。