蕗狩軽便図画模型工作部日記

ー シュレマル工房 覚え書き ー

本や資料などに発生したカビ退治は大変だというお話です

(↓NHKガッテン!サイトより画像引用)

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倉庫にしまってあった雑誌バインダーのビニール張り表紙がカビたので次亜塩素酸ナトリウム(台所漂白剤)で殺菌除去したというのを見ました。

本の表紙とかのカビって、天気の良い日に虫干しすれば良いのでは? 日光に晒して高温(と言っても50度程度)になれば大抵のカビはほぼ死滅すると聞いたし、サウナに持ち込むとかでもいいんじゃなかろうか?などと不埒なことを考えたのですが、

「カビの胞子は50℃では何も変化もありません。圧力釜で120℃30分というのが目安です。怪しい情報に踊らされてはいけません。」というお叱りが^^;

えーっ!?そうなん?なんで?おっかしーなー?

これ、うちのお風呂でやっててカビが全然こないで助かってるのですが、ひょっとしてうちのお風呂は山崎パン工場並みのクリーンな環境?とはとても思えないし、やっぱりなにかちゃんとした理由があるに違いないと無責任かつ根拠のない確信。

まずははて、どこでこの方法を知ったのかと認知ぼけ記憶にむりやり手を突っ込んで脳みそ引っ掻き回して出てきたのがこれです。

www9.nhk.or.jp

要点は、

・【コツ① カビを根こそぎ退治!】 50℃のお湯を90秒間かける

・【コツ③ カビを予防!】 1週間に1回、50℃のお湯を5秒間かける

>カビは直接お湯がかかると、5秒間で死んでしまいます。浴室で、カビの胞子が大きく成長するまではおよそ1週間~10日間。そのため、1週間に1回、カビが成長する前に、50℃のお湯を5秒間かければ、カビを予防することができます。

とのこと。

つまり、カビ(のおそらくは菌糸体)を殺すわけで、胞子が生き残っていてもそれが成長するまでに殺して繁茂するのを防ぐということのようですね。

なるほど。

でもこの説明じゃ、カビの胞子を殺せないと言っているのか殺してもどこかから飛んで来た胞子が成長すると言っているのかどうもよくわかりません。

とたんに蕗狩軽便図画工作部シュレマル工房の好奇心のスイッチがオン。興味津々欣喜雀躍知的好奇心探索の旅が始まりました。

とりあえずネットを検索。カビ取り、カビ防止などのキーワードでヒットしたサイトを順に見ていくうちに、文部科学省のサイトで、博物館・図書館等向けのカビ対策マニュアルという文書に行き当たりました。

ひととおりざっと読んで、感動。

カビという微生物に関する基礎的知識がものすごく丁寧にわかりやすくまとめられています。その上で文化財資料のカビ対策について詳しく、私みたいな素人にも理解できる書き方で要領よく記述されています。めっちゃ勉強になりました。

ただ、このマニュアルはあくまでも博物館・図書館等の資料や記念物に適用するものであって、食品や家具一般などは対象としていないので、お風呂や家具、寝具などのカビ対策で利用される方法などはカバーされていません。その点はしっかり分けて読む必要があります。

まったく、口を開けば役人はダメだとか学者は役に立たないとかいう人はたくさんいますが、こういう資料もしっかりとネットにも公開している文部科学省はじめ普通一般的に政府行政機関は(もちろん例外はあると思いますが)ほんと真面目にお仕事頑張っておられるんだなあと改めて思います。

余談はともかく、下は「微生物の生育可能温度領域と最適生育温度」と「カビの耐熱性」に関して、マニュアルからの引用です。

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これを見ると、

>(カビ胞子を水に懸濁した状態での耐熱性については)菌糸は胞子よりも耐熱性が低く、50度でほとんどの菌糸が死滅する。80度において、30分程度の加熱処理によりほとんどのカビが死滅する。

>しかしながら乾熱(乾燥状態での加熱)では、カビ胞子(分生子、子嚢胞子、接合胞子、厚膜胞子)を死滅させるには120度以上で60~120分程度の加熱時間を必要とし、非常に耐熱性が高い。

とあります。

お風呂のカビ退治に50度程度のお湯をかけるという方法の根拠はこの1番目の記述ですね。50度でほとんどの菌糸が死滅するわけですから、ためしてガッテン情報の根拠推測での「カビ(のおそらくは菌糸体)を殺すわけで、胞子が生き残っていてもそれが成長するまでに殺して繁茂するのを防ぐ」という考え方は当たりでしょう。

カビ胞子を水に懸濁した状態での加熱では「80度において、30分程度の加熱処理によりほとんどのカビ(最も耐熱性の高い子嚢胞子)が死滅する。」とあります。要するに煮沸消毒すればカビは根こそぎ退治できます。菌糸を死滅させるだけならお50度程度のお湯をかけるだけです。

「えーっ!?なにそれ?おっかしーなー?」とこの知的好奇心探索の旅?のきっかけとなった「カビの胞子は50℃では何も変化もありません。圧力釜で120℃30分というのが目安です。」という根拠に相当するであろう情報は2番目の記述ですが、これは乾熱(乾燥状態での加熱)条件下での話です。

マニュアルは資料上に付着あるいは生育したカビの加熱殺菌を対象としているので、熱湯にぶち込んで煮込む(煮沸消毒する)なんてことは論外ですからこれでいいのだと思います。

しかし「乾熱(乾燥状態での加熱)では、カビ胞子(分生子、子嚢胞子、接合胞子、厚膜胞子)を死滅させるには120度以上60~120分程度の加熱時間を必要」という記述に相当する情報の一部を切り出し、また根拠出典を明確に示さずに「圧力釜で120℃30分というのが目安です。」と言ってしまうのは、煮沸消毒しても容易に死滅しない微生物はいくらもあるとはいえ、混乱の元になるような気がします。

マニュアルでは熱によるカビの制御方法として、

 <熱>

 カビの耐熱性については温度の項で解説したがカビ菌糸のみを殺滅するのは比較的低温(80度、30分)加熱で良いが、分生子、子嚢胞子、厚膜胞子などの耐熱性細胞は120度、2時間以上の加熱が必要であるので資料や記念物に応用しない方が良い。なお、加熱方法としてはマイクロ波加熱、赤外線加熱および熱気流加熱がある。

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とまとめられています。

繰り返しになりますが、これはその保護対象物が、原則煮沸消毒なんかできない、乾熱(乾燥状態での加熱)での処理が前提の博物館・図書館の資料や記念物だからの結論であって、その他のものについてはこの限りではないことに注意する必要があります。

その他、物理的制御方法としてはこんなものが挙げられています。

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そして化学物質を使う制御法については下記のように記述されていますが、この中に次亜塩素酸ナトリウムは掲げられていません。(原資料当該項目参照のこと)

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次亜塩素酸ナトリウムなどは保護対象物に損傷を与える可能性が高いことから、最初から選択肢から除外されているのかもしれません。

また、掲げられた物質はいずれも生物の機能を阻害し停止させることによって死滅させる化学物質で、直接的に生物組織組成、構造を破壊する物質ではないようです。

その他、物理的制御法の中に<紫外線>の項目がありますが、これも、

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太陽光の下で虫干しするなんてのも言語道断のことなのかもしれません。

ということで、今回もまたまた知らないことばかりでした。

結構ざっとですが、カビのこと、カビ対策のことについてたくさん勉強できてとっても幸せな気分です。眼がかすむのがかないませんけど^^;

テレビやネットの情報なども決して「怪しい情報」ばかりではなくて、ちゃんと公共的に信頼性のあるサイトや資料、情報を検索比較し判断して行けばそれなりに、どこがまずくてどこが正確な情報なのかを見分けることもできて「踊らされる」ことも避けられそうだということも改めて感じて、なかなかに満足した興味津々知的好奇心探索の旅?でした。

ああ、面白かった!です。

 

参考、引用サイト