ドリルの振れなど模型用に使用する工具の精度のこと に関して、ベテランモデラーの方々からお聞きしたことを纏めてみました。
・多くのモデラーは振れの計測はしていないと思われる。ボール盤の場合は、孔あけの初期のビビリで振れを感知できるが、感覚的なもので数値化はできない。(精度の良し悪し、振れの程度は)むしろ、メーカーや価格で判断すべき。
・通常、卓上ボール盤付属のドリルチャックでは100/1000mm単位での振れは有って普通。よくできた中華製ではドリルチャックの付け根の主軸(JT;ジャコブステーパ)で振れは10/1000mm程度。
・精度の良いチャック(ex. ユキワ精工の唯一MTに対応しているM8MG)を使えば、1.0ドリル根元での振れが25/1000mmに収まる。
・振れは、木材をドリルに当て、じっとしていれば合格。
・これで0.3ドリルは十分開けられる。0.20ドリル以下は振れよりむしろ、力加減や切削油、ワークの保持方法とかによって困難。
・ボール盤などの工作機械は本体主軸とチャックを分けて考えることが重要。
・振れがひどい中華製の安価なボール盤でも主軸に問題がなければ、高精度のチャック(ex. 堀内製作所の6.5EL小径用)に交換し、0.3mmストレートドリルでポンチ無しでスイスイ穴あけできる。
・市販のボール盤はチャックが安物なので、これを交換するだけでもかなり精度が上がる。(ex. エミニ製ボール盤のチャックをユキワのキーレスチャックに交換し、振れは2/100以下)。プロの間ではチャックは消耗品という認識。
・ボール盤ドリルの振れについての考え方
①工具は自分で研究し、作ったり改善するもの。
②メーカーや価格は実数字を示していない限り振れに関して信用できない。
③振れの原因は、主軸ではなく、チャックに有り。
④0.7キリ以上であれば、何を使っても、まず孔は開く。
工具の良し悪しについては、結局のところ私のような人には、メーカーや価格(とそのスペック情報の有無)が現実的な判断基準になるのかなとは思いますが、ベテランモデラーの方々の道具工具の加工調整記事などを拝見するにつけ、どんな状態が望ましいのかという具体的な指標についての情報、これくらいの精度がないと、剛性がないといけないんだなとか、これくらいの凸凹やガタがあって良いのだなとか、の情報がその道具の良し悪しを自分で判断したり調整するのに必須と感じます。
そのあたりがなんとなくよくわからないというか、経験を積まないとわかってこないというのは確かにそうなのでしょうが、未だわかっていない人(私のことです)にはなかなか辛いものがあります。
なので「工具は自分で研究し、作ったり改善するもの」ということになると、私を含め途方に暮れる人多数に上るのじゃ無いかと……^^;
普及品のボール盤では有って普通という100/1000、つまり1ミリドリルで0.1mmの振れは、回転しているドリルビットシャンクに爪の先を触れさせるとこまかく弾かれるような振動を感じる程度だと思います。それ以下の振れならばほぼ模型工作的には合格ということですね。
2/100以下の振れというと、シャンクに爪の先をあてても弾かれず擦られる振動が伝わってくる感じと思われます。
振れの度合いとドリルビットシャンクの根元に爪の先を当てた時の感触の関係がある程度わかっていれば、モーターピンバイスや簡易ボール盤などの選定の良い指標になりそうです。
モーター軸に直接ドリルチャックを取り付けているモーター付きピンバイスや簡易ドリルスタンドでは、軸そのものの振れはほとんどないと思うので、ドリルチャックそのものの精度と軸への取り付けの精度が問題になります。
アマゾンなどで購入できる安価なミニドリルチャックを使ったモーターツールや簡易ドリルスタンドなどではチャックそのものの精度の問題もあるでしょうから振れを最小限に収めるのは難しそうですが、そういうものを選んだり調整したりする際の感覚的指標として、ドリルビットシャンク(ドリルチャック?)に爪の先を当てて断続的に弾かれない程度の振動、木材をドリルに当ててもほぼじっとしているレベルの振れということで、覚えておこうと思います。
(注:連続的に細かく僅かに弾かれるような振動は許容範囲。振れが大きいと少し強めに断続的に不規則に弾かれる感触になります。弾かれた後再度爪の先が触れるまでにわずかですが時間がかかるせいでしょう。爪の先の代わりに金属棒で触れると感触に加えて音でも判断できます。)
総合すると、チャックが一番の問題で、精度を望むなら良いチャックが必須ということのようです。
初心者や精密な機械工作を行わない私のようなレベルの人が、0.3mmドリルで確実にすいすい開けられるという性能までを望むかどうかは疑問ですが、腕が上がり要求水準が高くなった時には迷わず高級なチャックを使用すべきだということでしょう。
初心者やあまり精密な作業を頻繁に行わない自堕落モデラーにとっては、投資コストとベネフィットのバランスに悩むところです。
私の場合、精度の高い機械工作とは縁遠いので卓上ボール盤は所持しておらず、垂直な穴あけは伊東屋のCHIBIボール盤を使っています。しかしこの簡易ボール盤はコレットチャックのくせに主軸(モーター軸からギヤダウンしている)の精度があまり高く無くて、0.5以下のドリルでは使い物になりません。
なので0.5以下は、どうせ薄板にしか穴をあけないし、いにしえのマッハ模型店謹製モーター付きピンバイス(あたりが良かったのか、問題になるレベルの振れがありません)に頼っています。
リューターに関しては、
・歯科技工用マイクロモーター(歯科用にリューターは無い。)は、10万円でも2万円でも振れ精度にほとんど違いはない。高価なのはブランド代。多少操作感がいいくらいで、耐久性もいいわけではない。
・大昔にプロクソンのホビー用ミニルーター使ったことがあるが、ものすごい振れで使い物にはならなかった。
という話がありました。
たしかに、手持ちのプロクソンリューター(40年前の製品)をスタンドに取り付け、リューター用のピンバイスを介してドリルを咥えさせボール盤の代用にしようと試みましたが全く使い物になりませんでした。
でもルーマー型シャンクドリルをコレットに直接咥えるとかなり振れが少なくなり、1mm程度のドリルを最高速回転での使用ならなんとかなります。精度は望めませんが、基盤の穴あけ程度の作業になら使えます。
ところが、リューターに切削用のビットを取り付けて、本来の用途通りに横または斜めに押し付けるように使った場合は不思議なことに、中途半端な速度だとビットが暴れやすいですが、低い速度か最高速の回転速度だとビット先の振動が少なく安定します。
それがわかっていれば、本来の切削用途にはあまり問題なく使えます。手持ちのリューターが年代もののオンボロなのでよくわかりませんが、そういうものなのでしょうか?
どちらにしろ、たとえ振れの少ないリューターであったとしても、モーターはもっぱら高速回転用でトルクがないことや、軸方向に力を受ける構造では無いことから、模型工作用のボール盤の代用には不適ということだけは確かなようです。
注:プロが使う小型のボール盤にもスラストベアリングは組み込まれていないようですが、主軸に使用されているベアリングはリューターなどに使われているものより大きく精密かつ丈夫なので実用上問題にはならないということでしょうし、もともと軸方向に大きな力をかけない使い方が前提なのだと思います。
模型では卓上ボール盤などを簡易なプレス代わりに使う例を見かけることがありますが、あまり大きな力をかけるようなことは避けた方が良さそうですね。
注2:「ドリル 振れ」で検索すると興味深い記事がたくさんヒットします。記事内容を見るとプロの精密加工の世界と趣味の模型工作の世界での認識の差を実感します。